近年、米の価格が上昇している。
生活必需品であるため、
値上がりは家計への影響として強く意識されやすい。
しかし、ここで観測するのは
一時的な不作や流通トラブルではない。
米が安定的に安く供給されてきた前提条件の変化である。
これまで米は、
・国内で生産が完結しやすい
・需要が大きく変動しにくい
・価格調整が制度的に行われてきた
という構造を持っていた。
この構造の中では、
多少の変動があっても、
価格は「戻るもの」として認識されていた。
現在、その前提が揺らいでいる。
生産現場では、
高齢化や担い手不足が進み、
生産コストは上昇しやすい。
同時に、燃料費や資材費の変動は、
農業経営に直接影響する。
また、流通や在庫の管理も、
これまでのように
余裕を前提に組み立てにくくなっている。
結果として、
供給は「潤沢」ではなく
管理された量として扱われやすくなる。
ここで重要なのは、
価格が上がった理由が
単一の原因ではない点である。
観測できるのは、
安定を支えていた複数の条件が同時に弱まっているという状態である。
では、価格は元に戻るのか。
短期的には、
一時的な調整によって
下がる局面はあり得る。
しかし、以前と同じ水準が
恒常的に維持されるかは別問題である。
なぜなら、
戻るとは
「以前の前提条件が再び成立する」
ことを意味するからである。
担い手、コスト、流通、需要。
これらの前提が変わったままであれば、
価格だけが元に戻る理由は乏しい。
米の価格上昇は、
特別な異常事態というより、
長く続いていた安定構造が
次の形へ移行している途中の現象として観測できる。