NHKが赤字に転落しているという報道が出ている。
ここで観測するのは、経営判断の是非や番組内容の評価ではない。
公共放送が成立してきた前提条件の変化である。
NHKは長らく、
・全国同時
・同一内容
・安定した受信料
という構造の上で運営されてきた。
この構造では、視聴者は「選ぶ」よりも「受け取る」立場にあった。
現在、その前提が弱まっている。
視聴環境は個別化され、
視聴者は時間・内容・媒体を自分で選ぶ。
同時性は必須条件ではなくなった。
この変化は、視聴率の問題にとどまらない。
負担の正当性をどこに置くかという構造に影響している。
受信料は、
「利用した対価」ではなく
「公共インフラを維持するための分担」
として成立してきた。
しかし視聴行為が分散すると、
分担の実感は持ちにくくなる。
同時に、制作・配信・設備維持のコスト構造は、
急激には変えられない。
この結果、
収入の前提が揺らぐ一方で、
支出は固定されやすい状態が続く。
ここで起きているのは、
NHKという組織の失敗ではない。
「全員が同じ情報基盤を共有する」前提が弱まったという現象である。
公共放送は、
誰かに強く選ばれることで成立する仕組みではない。
むしろ、
選ばれなくても存在することに意味があった。
赤字という数字は、
需要の減少というより、
公共性を支える構造の再配置が進んでいることを示している。